| 緑蔭通信(宮崎縣立圖書館報)第10号 昭和27年3月(館長 中村地平) |
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| 花と繪の圖書館 |
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たいていの公共図書館が、暗くおもくるしい空気につつまれている。そんな学生時代の印象から、いぜんぼくは図書館を利用することはめつたになかつた。自分が図書館をひきうけるようになつたとき、最初にぼくがかんがえたのは、館内をあかるく、美しくしたいということであつた。灰色の部屋のなかに陽の光を、かわいた空気のなかにたかい匂いを……。増築がすんだのち、ぼくは各部屋に郷土出身作家の繪をかけ、小学生室に金魚鉢をおいた。講和條約の調印式には、記念のために館員一同が小遣いをさいて、館のぐるりに植木や草花の苗をうえた。すべて、ぼくのそんな理想の実現化の第一歩であつた。 |
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しかし、その程度のことでは満足することができない。不満の気もちをつよくいだいていたが、そんなとき大正画壇に大きな足跡をのこしている児島虎次郎氏の大作7点を本館にあずかることになつた。これらの作品をかかげてみると、讀書室は面目を一新した。虎次郎氏の作品は、さらにちかく10点、倉敷の美術館から本館に転送してもらう約束ができている。これがとどけば、本館はさながら小美術館の観を呈する予想である。かねてぼくは地方の小都市である宮崎市にも美術館がほしいとかんがえているが、すくなくともそんなぼくの夢が実現するまでは、本館をもつて美術館の役わりをはたしてゆきたい。ぼくはそうかんがえているのである。 |
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美術品ばかりではない、讀書につかれた眼には緑の色もほしい。こんどようやく予算を捻出して、1万円ほどの植木を、宮崎大学農学部から買いこむことになつた。かく讀書室の窓辺や机の上に、蘭や櫻草やサボテンなどの鉢をおく。つつましい緑や紅の花かげで、讀書子がしずかに本をひもとく。かんがえただけで、ぼくの胸はあたたまつてくるのである。5月。本館の50周年記念日には、館員一同で醵金して記念樹を植える。白亜の殿堂の玄関さきに、巨きなフェニックスか、あるいはソテツの樹がそそりたつ。まぶしい南國の陽は樹樹の上に降りそそぎ、陽のなかを燕の群が勢よくとびかう。そんなぼくの夢。館の庭に歌碑をたてることも、いぜんからかんがえているのであるが、これはまず予算のメドがついてからのこと、将来の問題になりそうである。夢ははるかに途は遠い。 |
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